◆料理の特長
津軽地方に伝承される郷土料理の中でも、もっとも有名と言っても過言ではないこの一品。普段、台所を守っている農家の嫁が小正月の休みを迎える前、鍋いっぱいにけの汁を作っていたそうです。
汁といいつつも基本的には煮物。大きな鍋に大根やにんじん、ぜんまいといった水分を持つ野菜を順番に入れて、鍋にかけて野菜の水分で煮込んで作るのが昔ながらの作り方。日持ちさせることが大切な料理なので、昔は魚出汁や凍み豆腐・油揚げといったものは使わず、昆布出汁と味噌だけで味付けられていました。
誕生のルーツには諸説ありますが、まだ米が少なかった時代に、かて飯として食されていた野菜粥の野菜部分とごはんが分離し、前者がおかずとして独立。「粥の汁」と呼ばれていた料理が転じてけの汁になったという説が、現在も残る煮物としてのけの汁の姿と一致することもあって有力です。
ところで、野菜をはじめとした具材は必ず5ミリ角程度にカットされているのですが、これは粥時代に野菜のサイズがこの程度だったという理由が有力。現在は八百屋さんに袋詰めになったけの汁用の具材も売られており、身近に作れる存在になった一方、昔ながらの煮物としてのけの汁が少しずつ姿を消しているのも事実です。
とはいえ、津軽地方の中でも日本海沿岸では「醤油仕立て✕具が大きめ」というけの汁というものもあり、同じ呼び名でありながら器に入った姿が全然違うという、地域性に富んだ料理という顔を持っています。